著名な数学の権威から飛び出した「ikigai」という言葉
いきなり私事で恐縮ですが、先日仕事で中央アジアに位置するキルギス共和国の首都、ビシュケクに滞在しました。
同行したロシア人の同僚が数学者ということもあり、滞在中にお会いする方は数学者ばかり。そんな中、「ヨーロッパでも著名な数学の権威」という70代の研究者と夕食をご一緒する機会がありました。キルギス語とロシア語のみを使用するその研究者とのコミュニケーションは、同僚の通訳に頼り切りだったのですが、生き方について議論している時、突然相手の口から日本語が飛び出しました。
その言葉は「ikigai(生きがい)」。
聞くところによると、それは彼が今読んでいる書籍のタイトルで、日本人の哲学や長生きの秘訣についてつづられているのだと説明してくれました。
この数年でメディア露出が増えた「ikigai」
飛行機を2回乗り継ぎ、24時間かけてたどり着いた小さな国の小さな町のレストランで、初めて会う人の口から「ikigai」という言葉が発せられた驚きに、キルギス産コニャックの酔いもすっかりさめ、ホテルに戻るとすぐにインターネットで調べてみました。
すると「ikigai」が海外メディアで取り挙げられるようになったのは2000年代後半で、過去2年程の間に「ikigai」をタイトルに持つ多数の書籍が、異なる国の書著により執筆・出版されていることが分かりました。
また、「インディペンデント紙」やBBCでも日本人の生き方を理解する鍵となる要素として立て続けに紹介されており、ここ数年で急速に注目が高まっている様子。では、日本人である私たちにとって親しみ深い「ikigai」が、海外でどのように捉えられており、なぜそんなに「スペシャル」なのでしょう。すっかり前置きが長くなりましたが、以下に簡単に概要をまとめてみたいと思います。
「ikigai」と「purpose」の違い
「ikigai」は英語で「a reason for being(存在理由)」や「the reason for which you get up in the morning(朝起きる理由)」と定義されています。意味が近い英単語として「purpose(目的・意図)」が挙げられていますが、「ikigai」は「人生に価値や意義を与えるもの」や、生きていることの喜びや充足感を実感できることでもあり(Wikipedia)、遠くの目指すべき到達地点というより、日々実感する、生活の質を高める、「これがあるから今日も起きられる」というものであることから、purposeとは異なるものとして捉えられています。
「ikigai」が最初に広く知られることになったきっかけは、世界各地の高齢者への取材に基づいたDan Buettner氏の著書『The Blue Zones』(邦訳『ブルーゾーン 世界の100歳人(センテナリアン)に学ぶ健康と長寿のルール』)と言われており、そのためか「ikigai」は老後幸せに生きるための要素として注目されてきました。
しかしここ最近では、若者や現役世代に向けて「ikigai」を持とうというメッセージが多く発信されています。なぜでしょうか?
「ikigai」は、今の時代にマッチする
私はこんな風に考えました。先が見えづらい予測不可能な状況の中で、purposeを持てないことを嘆くのではなく、もっと手の届くところにある喜びを味わうことや、自分の中にある資質や価値を表現することで得られる「ikigai」が、今の時代を満たされた気持ちで生きるために必要なのではないのでしょうか。
あなたはどう考えますか?そしてあなたの「ikigai」は何ですか?
次回は自分にとっての「ikigai」を見出す方法について見ていきましょう。
———
参照:
Melody Wilding, The Japanese Concept ‘Ikigai’ is a Formula for Happiness and Meaning, Better Humans, 2017年12月1日発行
Ken Mogi, The Little Book of Ikigai: The secret Japanese way to live a happy and long life, Quercus, 2017
Jill Suttie, How to Find Your Purpose in Midlife, Greater Good Magazine (UC Berkeley), 2018年3月8日発行
https://greatergood.berkeley.edu/article/item/how_to_find_your_purpose_in_midlife
イローナ・ボニウェル, ポジティブ心理学が1冊でわかる本, 国書刊行会, 2015